
栄子姉さんが「小豆が買えた」と言って帰ってきました。
まだスーパーも開いていない。震災後間もない日、電気も水道もガスもないのに
康ちゃんは「おばちゃん ぼたもち作ってけらぃん」と母に言いました。
その時の母は75歳
ずっと昔は、かまどで煮炊きしたことがあるのです。
母は、康ちゃんがどこからか調達してきた七輪に竹炭で火おこして土鍋で米を炊き
あんこは時間がかかるからとちんちんストーブの上で小豆を炊きました。
3日かかって出来上がったぼたもちは
いいかげんなものだったとは思うのですが大事に周囲の年配の人から配りました。
ひとつ私の分もあり、ほんとうにうんまいなと思いました。
みんなが喜んでくれました。重苦しい心の中でしたが
いっとき、ほんのり明るい気持ちになり大丈夫なのではないかと思えました。
でも一番、嬉しそうだったのは やはり母です。
ストーブの上であんこを練りぼたもちが作れて、みんなに喜ばれたのですから。
私たちがちんちんストーブと呼んでいるのは
反射式の小さな石油ストーブです。
このストーブは当時「総合職」でした。
暖をとるだけでなく やかんのお湯を沸かしてくれます。
湯気は適度な湿気を出してくれる。煮炊きもできて 薄暗くなった部屋の灯りでもあり、大活躍でした。
このごろは、より専門性を持った仕事が増えていますが
田舎のような小さいところではあれも これもできるのも良いのです。
これしかできないというよりは「よろずや」的に
生まれるところから成長するところまで自分たちがやる
そのアナログな工夫力というか 「やったことがある できるかも」という物差しを伸ばすことが、小さく積み重なって、明るいほうへ歩く基だと感じています。